
オランダツアー中、
契約をめぐって絶えずプロモーターとSOMI側で諍いがあった。
常にピリピリした雰囲気だった。
ツアー最終日、ついにそれが沸点に達した。
Tilburgという街のコンサートスペースで
サウンドチェックを終えて、控え室で食事中、
廊下で、SOMIとプロモーターが口論しているのが聞こえて来た。
どうやらギャラが支払われない可能性が出て来たのだ。
本番開始30分前に、涙を浮かべたSOMIが控え室に戻ってきて
バンドメンバーに、
『今日のショーはキャンセルにする。』
と通告。
一度ステージ衣装に着替えたメンバーは私服に着替え直す。
ドラムのスティーヴは、セットアップした自分のシンバルを撤収。
会場の取締役の人が、困惑して控え室に来た。
『お客様がたくさん来ているのに、ショーをキャンセルにするわけにはいきません。
なんとかなりませんか?』
『こちらの問題ではありません。プロモーターに問い合わせてください。
ツアーのギャラと天売したCDの売り上げをショーが始まる前に持ってきてくれるまで
ショーは行ないません。』
取締役、しょうがないという表情でプロモーターに話に行く。
SOMIバンド控え室で待機すること30分。
ショー開始の夜8時になって、ドアをノックする音。
なんともバツの悪い顔をしてプロモーターが封筒を片手に入ってきた。
『キャッシュを持って来た。CD代も入っている。ショーをやってくれ。』
ベースのキースが早速、現金を数える。
契約書と数字が一致したらしい。
会場の取締役も入ってきて、
『じゃあ、30分遅れでショーを開始してもいいですか?』
『やりましょう。』
メンバーは再びステージ衣装に着替え、
スティーブはシンバルをセットし直した。
キースは現金を封筒に詰め込み、控え室には置いておけないと言って、
スーツの内ポケットに入れて、演奏した。
お客様には、ドラムセットに不備があってショー開始が
遅れたと説明したらしい。
ショー後のパーティーで複数のお客様から
『ドラムに何があったの?』
と聞かれたが、
『シンバルを留めるネジが見つからなくて。』
と返すスティーヴ。
Amsterdamに戻る車の中、
バンドメンバーとプロモーターの間に会話はゼロ。
彼から、翌日、朝の7時45分に
空港までのタクシーを手配したとだけ告げられた。
翌朝、8時を過ぎても、タクシーは来ない。
しかも、8時5分頃、ホテルに『ホテル代2日分、SOMIにチャージしてくれ。』
とプロモーターから電話があった。
もちろん、SOMIは拒否。
ホテルのフロントにタクシーを呼んでもらい空港へ。
プロモーターと金の問題になるという話は
聞くばかりだったが、まさか、
そういう現場に遭遇するとは思ってもいなかった。
昔のジャズミュージシャンは、こういう事態に対応するのに、
ピストルを常に懐にひそませていたというが、
ショーをキャンセルするという通告で解決したSOMIの交渉術、
バンドメンバーの落ちついたサポートに実に感服した。
こういう争い事がまったくもって苦手な臆病者の私は
控え室では、ただ黙っていただけだったし
帰りの日も、ひょっとして空港に腕っ節の強さそうな兄ちゃんを多数引き連れた
プロモーターが待ち伏せしているのではないかとビクビクしていたことを告白しよう。
王様のような待遇を受けたバーレーンから一転、
ギャング映画のようなちょっと危険に満ちた体験をしたオランダ。
無事にNJに戻ってほっとしている次第。
写真は、バーレーンのブルカ売り場の看板。